新社長登場 山田恭一氏[そごう]
日経ビジネス 1999.08.23
土壇場での登板、再建は待ったなし
「『おめでとう』より『ご苦労さん、大変だな』と言わなければいかんなあ」ー。今年4月の社長就任時、山田氏は友人たちにこう言葉をかけられたという。それもそのはず。国内外合わせて1兆1000億円に及ぶ売上高を誇るそごうは今、存亡の危機に立たされているのだ。金融機関からの借入金は売り上げを大きく上回る1兆7000億円。肝心の本業も不況下で低迷し続けており、1997年度に立てた4年で借入金を1000億円圧縮するという計画は、達成が極めて困難だ。
さらなる心配もある。メーンバンクの1つである日本長期信用銀行の今後の行方だ。特別公的管理(一時国有化)されている長銀の譲渡先の意向次第では、整理回収機構に回されないとも限らない。負の遺産の処理には一刻の猶予もないのだ。
水島廣雄会長の下で長年、経営の一端を担ってきた上に、71歳という高齢もあって、山田氏の社長就任に疑問符をつける声もある。その点は山田氏本人も「自分にも責任があるし、年齢的に引退する時期を過ぎている」と認める。しかし「この厳しい時期に、社長としてカジ取りのできる人材が社内では見つからない。人材育成を怠ってきたのは我々の責任だが、誰かが泥をかぶって再建を軌道に乗せなければならない時に、逃げ出すわけにはいかない」と不退転の決意を見せる。
その一方で、全国の店舗を精力的に回り、従業員を励ましながら努めて笑顔を見せる。「会社全体の雰囲気は落ち込みがちだが、百貨店が明るさを失ってはいけない。危機感を持ちながら、元気に仕事をしようとハッパを掛けている」。山田氏をよく知る電通の成田豊社長は「いつも明るく、相手の立場を気遣う人だが、その半面、意志が強く、行動力もある。今そごうの社長を務められるのはこの人をおいていないのではないか」と強調する。
その意志の強さと行動力は、阪神大震災で半壊した神戸店の再建でも発揮された。復興本部長を務めた山田氏は水島会長の「全権一任」の言質を取り、自ら金融機関や役所などを駆け回った。そして、1年半以上かかると言われた全館営業を1年で成し遂げた。
山田氏は京都大学農学部を卒業後、人事・労務畑を20年以上も歩んできた百貨店のトップとしては異色の経歴の持ち主だ。人事関連の本を執筆するなど社内きっての論客でもある。そんな山田氏にかかる期待は大きいが、それには同氏が「偉大な存在」と公言する水島会長がとってきた政策を、あえて否定することも必要だ。「そごうに命をかけてきた男」(電通の成田社長)である山田氏が、「2年後にはグループ全店で単年度経常黒字」という目標を実現できるのか。道は厳しいが、後戻りはもはや許されない。
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