そごう 全貌がつかめない巨額のグループ債務
1999.08.03
危機的な財務状況が伝えられるそごう。水面から顔を出した負債額は氷山の一角にすぎない。どこに、どれだけの債務を抱えているのか――。
年商を上回るグループへの巨額貸付金
「当社は、そごうグループ会社等に対し、二五〇三億三九〇〇万円の貸付金を有するほか、借入金等に対 する三八九五億九四〇〇万円の債務保証(保証予約を含む)を行っている。これらの会社等のうちには、現在債務超過の状態にあるものもあるが、そごうグループ全体の平成九年度(一九九七年度)を初年度とする四ヵ年の総合再建計画に基づき相互協調支援を行い、当社からも積極的に業績向上のための経営指導や金利支援等を行っている。――中略――経済環境が悪化している中で債権評価に関する基準の厳格化の動向 に鑑み、当期において二五八億円の貸し倒れ損失を計上した」
これは、株式会社そごうの、九九年二月期決算有価証券報告書に記載された追加情報の一部である。そごうは、わが国最大の店舗数を誇 る百貨店そごうグループの中で唯一、株式上場を果たしている。太田昭和監査法人は、グループに対する 貸付金について二割以上の貸し倒れ引当金を計上することを、そごうに対して要求してきたが、話し合いの末、一割の引き当てで計上することで決着した。決算では特別損失二六四億一四〇〇万円を計上し、税引き後三億円の黒字予想から一転、当期損失二五六億七 七〇〇万円の大幅赤字を余儀なくされた。同社の場合には、二〇〇一年二月期決算から導入される新会計基準に基づく連結決算を前に、財務内容の改善は待った なしの状況である。
監査法人が懸念するまでもなく、年商を超えるグループ会社への巨額の長短貸付金は膨らむ一方。貸付金のうち最も多額の貸付先 は、大阪に所在する関係会社、そごうインターナショナルデベロップメントだ。長期貸付金一一一九億七 〇〇〇万円のほか、同社への保証債務一一三億六九〇〇万円、保証予約五三億七〇〇万円と、貸し付けと保証合計は一二八六億四六〇〇万円に上っている。同社 は、そごうの海外法人に対する投融資を主体に、海外法人から衣料品を中心とする輸入を行っているが、どれだけの売り上げと利益を上げているか、対外的なディスクローズは一切なされていない。
そごうの出資比率は低いものの、取引等を勘案すれば、同社はそごうの実質支配会社となるはずである。上場会社 の関係会社であり、そごう本体から一〇〇〇億円を超える借り入れがある会社の内容が明らかにされてい ない状況は、不思議としか言いようがない。こうした、貸付金や保証という巨額な数字の中身は、闇の中と言っても過言ではない。
グループの有利子負債は一・四兆円か
さらに、そごうグループを覆っている深い闇は、過大な有利子負 債だ。そごう単体の有利子負債は九九年二月末で二八一三億四〇〇万円、九八年同期に比べ二・一%増加 している。また、公表ベースのそごうグループ全体の有利子負債は約一兆四五〇〇億円にのぼり、そごうグループの国内売上高合計をはるかに超えている(表)。
しかも、そごうの抱える負債は、表に現れている金融機関からの借入金だけではない。有価証券報告書に記載されている偶発債 務は、「多摩そごう」への四一九億三七〇〇万円をはじめ、国内外のグループ会社の借入金について、総 額一五八三億七二〇〇万円に上っている。
海外事業は期間利益こそ確保しているものの多額の累損を抱えているといわれ、大半の保証先は劣悪な財務 内容となっている可能性が高い。その上、開示されている保証予約の二三一二億二三〇〇万円を含めると、保証債務額はなんと三八九五億九五〇〇万円に上る。 グループの有利子負債一兆四五〇〇億円を加えると、グループでは一兆八〇〇〇億円に迫る実質的な債務を抱えている計算となる。
さらに、そごうグループにささやかれている隠れた債務は、表に現れないグループ間同士の保証債務だ。グループの持ち株会社としての「千葉そごう」もグループ各社に保証債務を行っており、その額は約二〇〇〇億円に上っている。加えて指摘されているのは、グループ各社が絡み合って貸し付けや保証債務を行っているため、グループの複雑な実態がとても把握しきれないという状況である。
二〇社が債務超過
氷河期ともいえる百貨店業界の中にあって「そごうグループ」は、存亡の危機に立たされていると言っても過言ではない。
そごうグループは、大阪心斎橋の大阪店、神戸店、東京有楽町の東京店の三店を構える東証一部上場「そごう」をはじめとして、国内 で二九店舗を展開。店舗の不動産賃貸を行っている「千葉そごう」を持ち株会社とし、北は「札幌そごう」から南は「小倉そごう」まで二七の独立した法人で構成されている。そして、各社の財務内容といえば、おおよそ二七社中二〇社が、債務超過に転落しているのが現状だ。債務超過については、売り上げ不振によ る業績の悪化はもとより、グループの多くが資本金一億円の「過小資本」であることも原因となっている。
九九年二月決算発表の席上、二〇〇一年二月末を期限に、取締役の半減、二〇〇〇人の従業員削減や、赤字店舗の業態転換など実施するリストラ策が明らかにされた。グループ全体で111人いる役員を 48人まで減らす一方、希望退職募集などで一万一四〇〇人の従業員を九四〇〇人規模に削減する。そして、グループの有利子負債一兆四五〇〇億円を、資産売 却で圧縮するというものである。
また、各店舗の見直しについては、そごうの出資比率の低い 「いよてつそごう」「コトデンそごう」を除き、 業績などに応じて「規模縮小店」(八店舗)、「現状維持店」(一〇店舗)、「不採算店」(九店舗)の三つに分類。「不採算店」については閉鎖、売却も視野 に入れて検討を進める計画だ。二年以内に閉鎖する方向で地元自治体と調整に入っている「茂原店」は売り上げの倍以上もの有利子負債を抱え赤字決算が続き債 務超過に転落、一日も早く赤字という出血を止めなくてはならない状況である。しかも、赤字を垂れ流しているのは「茂原店」だけではなく、早急に対応を迫られている店がさらに、八店舗もあるということだ。
しかし、閉鎖や売却といっても、そう簡単には行かないところに問題の重大性がある。地元の再開 発組合や自治体など行政との調整が絡んでくるためだ。地権者や店舗周辺の整備を行ってきた行政側との対応も必要だ。おいそれと「そごう」にかわる入居企業もすぐ見つかるわけではなく、そごうの店舗の大半が駅前という好立地にあることも退店を難しくしている。
それだけではない。最大の問題なのが閉鎖にかかるコスト負担だ。設備の廃棄や 借入金に対する債務保証の履行、さらに従業員への退職金や関係者への違約金など、閉店コストは大きな負担だ。九四年に閉鎖した東京・柚木店においても、巨額の閉店コストがかかったと言われており、水島廣雄会長は、それ以来店舗の閉鎖を極端に嫌っているという。事実、柚木そごうに対する長期貸付金や保証履行に伴う求償債権や回収困難な債権が、いまだに約一七七億円残っている。これらの債権については決算書上では引当金を積んではいるものの、今後、検討されている店舗の閉鎖は一朝一夕には進まないのが実情で、身動きがとれない状況だ。
一方、資産の売却 についても前途は多難だ。とりあえず、東京都内と神戸の社宅二ヵ所を売却、売却益は三五億五〇〇〇万円で二〇〇〇年二月期の特別利益に計上する予定だが、 最大の目玉は大阪店の売却だ。もちろん、売却後はそごうが賃借するリースバック方式だが、山田恭一社長は「これまでの百貨店の形態を残すのか、専門店形式にするかは検討課題」と発言している。そごうは、 立地条件から見ても三五〇億円以上での売却を望んでいるが、売却金がすべて借入金圧縮に結びつくかどうかが問題となる。膨大な有利子負債の削減はどこまで 進むのか。いずれにしても、表面に現れている以上の重荷を背負ったそごうグループが、危機から脱出するには、とてつもなく高い壁を乗り越える必要がある。