そごうの出店戦略
1991.05.04
そごう再開発事業に乗る、子会社通し地域に還元
そごうグループの悲願、「トリプルそごう」が目前に迫っている。記念すべきグループ三十店舗目は、今年十月に開業する川口そごう(埼玉県)。八八年に二十一店舗目の豊田そごう(愛知 県)がオープンしてから、わずか三年で十店の出店というハイペースだ。
だが、同グループに とって、トリプルは“通過点”にすぎない。「これからは四十、五十を目指す」(水島広雄社長)と、出店意欲は衰えるところを知らない。
「駅前などの一等地に地域最大規模の店を出す」。そごうの出店戦略は明快だ。本格的に多店舗化に乗り出した六七年の千葉そごう以来、一部の例外を除いてこの原則を貫いている。一等地を確保するため、最近は市街地再開発事業に乗って出店するケースがほとんど。「再開発案件には 必ずといっていいほど、そごうがアプローチしている」と大手百貨店の開発担当者は打ち明ける。
こうした再開発事業でのコンペに競り勝ってきたのは、地域子会社方式での出店を採用しているのが大きい。地域子会社に地元資本を組み入れることで、地域密着の姿勢をアピールできるうえ、支店だと地元には落ちない利益が、出店先に本社を置く別会社だと地域に還元ができるのもセールスポイ ントだ。「MD(商品政策)面ではごく平凡」(大手百貨店役員)と言われるそごうが、各地で出店を有利に進めてこれたのも、このためだ。
川口そごう以 降も出店計画は目白押し。来年は三月に茂原(千葉県)、四月に福山(広島県)、六月に柚木(東京・八王子)の各店がそれぞれオープンする予定。このほか、小倉(福岡)、高松などにも出店準備を進めており、現在、出店候補は計十一店に上る。
既存店の増床も忘れてはいない。そごうグループで最大規模の売り場(六万八千平方メートル)を持つ横浜そごうを、さらに三万二千平方メートル増床し、国内最大の十万平方メートルにする計画だ。
また札幌、徳島、広島・呉などの店も増床を予定している。大規模小売店舗法(大店法)の規制緩和に対応して店舗の大型化を目指す三越など大手他社に対抗、「あくまで地域最大規模を堅持していく」(水島社長)構えだ。
そごうグループがいま抱える大きな課題は、東京店の活性化だ。同店は東京・有楽町と立地に恵まれながら、売り場面積が一万四千平方メートルと狭いこともあり、周辺の銀座地区各百貨店に顧客を奪われている。しかも、この三月の都庁の移転により、「有力顧客だった都庁職員が大幅に減った」(同店)ことが拍車をかけ、売り上げが伸び悩んでいる。
このため丸の内、銀座に勤めるビジネスマン、OLにターゲットを変更。一階から四階までのリニューアルを実施、コムサ・デ・モードなど有力ブランドも導入した。八月までに、 地下の食料品売り場も一新する計画だ。
しかし横浜そごう、千葉そごうなど首都圏にある同グループの大型店舗と比べると、東京店の力不足は否めない。三方を道路に囲まれ、増床も 難しい。関東地区での企業イメージ向上の面からも、「東京に大きな店をつくりたい」(東京経営計画室)との思いが同グループ内で強まっている。
「まだ具体的な計画はない」(同計画室)が、「情報収集力には自信がある」(山田恭一副社長)そごうだけに、東京への本格進出には目が離せない。
もうひとつの課題は、ストアアイデンティティーの強化だ。そごうの店舗は売り場は広いが、アパレルなどからの派遣店員が比較的多いこともあって、個性に乏しい。
今年二月に西鉄福岡駅再開発ビルへの出店競争で三越に敗れたのも、「三越の ミュージアム型百貨店に対し、そごうには対抗する店舗コンセプトがなかったのが響いた」(大手百貨店役員)と言われている。
大型化とともに、そごうならではの特色をどうやって店舗で打ち出していくかが、“トリプル以降”の成否のカギを握っている。