「そごう」の拡大路線30年にかげり
1993.07.20
広島市のタウン情報誌が、数年前、市内4つのデパートの人気投票をしたことがある。
「お中元はやっぱり地元の老舗、福屋の包み紙でなくちゃ」
「転勤族の奥様は三越が好き」
といった声を抑えて、総合1位になったのは「そごう」。最大の売り場面積と、一家そろって楽しめることがその理由だった。そごうは、大都市郊外や地方都市に、地域でいちばん大きな店を開いて急成長した。この20年で国内外に新しい店を30も出し、グループの売り上げでデパート日本一になった。
しかし、その勢いにもブレーキがかかった。水島広雄社長が7月5日の記者懇談会で、すでに着工した店舗以外は、出店を凍結する方針を明らかにしたのだ。95年オープンの広島新館までは予定通りだが、計画段階の東京・錦糸町や大阪・中百舌鳥への出店は、しばらく棚上げされる。
別会社にして各地に進出
そごうの拡大路線は、業界の常識やぶりの手法だった。会社の形態が、変わっている。大阪に本社のある株式会社そごうが持っている店は、大阪、神戸、東京・有楽町の3つだけ。残る33店舗は、それぞれ別会社に分かれている。その頂点に立つのは、唯一の上場企業であるそごう本体ではなく、「千葉そごう」である。「千葉そごうが持ち株会社で、他の会社がその傘下に入る、という構造になっている」矢野経済研究所研究員の藤原佳代子さんはいう。柏そごうと広島そごうは、屈指の売上高を誇る店だが、千葉そごうが100%出資した子会社だ。その柏と広島は、札幌そごう、横浜そごうの大株主でもある。今年4月、千葉駅前に新装オープンした「千葉そごう」は、千葉そごうの店ではなく、別会社の新千葉そごうだというのだから、なんともややこしい。親・子・孫会社の資本関係が入り乱れるこの仕組みは、拡大路線を進めるためにある。
まず、自治体の駅前再開発などの情報をいちはやくキャッチすると、新会社をつくり、周辺の土地を安く買う。デパートができれば地価も上がる。それを担保に資金を借りて、次の出店へ・・・・・。
「そごう錬金術」「小売業よりもディベロッパー」
といわれるゆえんである。別会社にすれば、地元に税金が落ちる。「地域密着型」を売り物に、商店街の反対を抑え、自治体に食い込んできた。
興銀から移りカリスマに
しかし、バブル時代はうまく回転しても、消費が冷え込み、銀行が貸し渋り、地価が下がり始めると、行き詰まってくる。巨艦店・拡大路線がきしみ始めたのは一昨年。30店目の川口そごう(埼玉県)開店のころからだ、と業界関係者は指摘する。地元から、初の本格的デパートとして期待をかけられて、床に大理石を張り、ゴージャスなつくりにした。それが重荷になって、営業利益を出せるようになるまで、7、8年かかるという。
旗艦店をめざす横浜そごうも、開店9年目だが、まだ採算ラインにとどいていない。グループの借入金は1兆円を超えるとみられるが、くわしいことはベールの中だ。水島社長は81歳にもなる。日本興業銀行から、副社長で入社し、62年に社長になってから、拡大路線を30年間ひっぱてきた。グループの頂点にある千葉そごうの株を5割持ち、事実上のオーナーとして君臨する。巨額の借入金について、冗談まじりに「私自身が担保」と語ったこともある。それだけに、カリスマ的な社長が代わればグループが空中分解する、と心配する声もある。
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